広島高等裁判所 昭和25年(う)974号 判決
被告人が逃亡すると疑うに足りる相当の理由があるときと言う理由のみに依つては勾留更新は一回に限られることは所論の通りであるが其の理由の外に被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由があるときは二回以上其の勾留を更新することが出来ることは刑事訴訟法第六〇条第二項の規定するところである。而して被告人が最初勾留せられたのは逃亡の虞と罪証隠滅の疑があるとの二の理由で勾留せられたもので被告人が他の被告事件で懲役刑の確定判決を受け昭和二十五年六月十四日から其の刑の執行を受けつつあつたとしても本件被告事件の審判中に仮出獄等に依り被告人が其の刑期満了前に釈放せられることもあり得るので、其の場合を慮つて本件の勾留を継続して置かなければ逃亡の虞があるものと認めることも不当ではなく、又たとひ被告人が原審に於ける昭和二十五年九月三十日の第六回公判以降本件犯行を自白して居たとしても、夫以前に於ては本件犯行を否定して居たものであると共に、被告人の自白のみに依つて被告人を有罪とすることは出来ないのであるから、被告人が自白したからといつて直ちに夫のみに依り罪証隠滅の虞が全く存しなくなつたものと断定することが出来るものではない。従つて原審が被告人に対する第二回乃至第六回の勾留更新に当り罪証隠滅及逃亡の虞あることを理由としたことは何等所論の様に違法な点はない。又原審が昭和二十五年十月二十一日附の第七回の勾留更新に当つて、其の理由として従前の罪証隠滅の虞の代りに被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当る罪を犯したことを理由として居ることは所論の通りであるが、原審は昭和二十五年四月十一日の第一回公判以来同年十月十日の第七回公判迄、種々の証拠を取調べて来たもので同年九月三十日の第六回公判以降は被告人も本件犯行を自白するに至つたので、前記第七回の勾留更新に当つては罪証隠滅の代りに前記の様に常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当る罪を犯したものとして勾留を更新するを相当とし之を理由としたものと認められるから、右勾留更新決定に何等所論の様な違法はない。更に仮に原審の勾留手続が違法であつたにしても、これのみに依り其の間に於ける被告人の供述が全く証拠能力のないものとすることは出来ないから原審公判に於ける被告人の供述を原判示事実を認定する証拠としたことは何等違法ではない。